父が亡くなり、相続人は私と兄の2名です。兄が父の生前に、父の預貯金を500万円程使い込んだ事実が判明しました。このため、相続開始時の父の預貯金は300万円しか残っていません。今般、預貯金の仮払いの制度を利用して生活費に充てることを希望していますが、兄が使い込んだ500万円を含めることができますか?

 仮払いを請求できる預貯金は「相続開始時の預貯金残高」を基準とし、その3分の1に仮払いを請求する相続人の法定相続分を乗じた金額か、150万円のいずれか低い金額となります(民法第909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令)。

 相続人が相続開始前に処分した財産は遺産分割の対象とはならず、不当利得や損害賠償の法理によって解決が図られるべき問題となります。

私は、亡くなった父の遺言によりすべての遺産を相続しましたが、今般、弟より、遺留分侵害額請求として500万円の請求を受けました。弟の請求額は妥当ですので金額に争いはありませんが、父の遺産はほとんどが不動産で預貯金がありませんので、500万円の現金を一括で用意することができません。 現金の代わりに、不動産を弟名義とすることはできないのでしょうか?

 遺留分侵害額請求は金銭の支払いを請求する権利です。したがって、請求を受けた側は、金銭による支払いに応じる義務があります。弟さんが金銭の代わりに不動産を譲り受けることに同意した場合は代物弁済契約が成立しますが、弟さんの同意が得られない場合は、不動産その他の金銭以外の財産のよる返還は認められませんので、ご注意ください。

預貯金の仮払い制度を利用して払戻しを受けた預貯金は、生活費に充てることはできませんか?

 仮払い制度は資金使途を限定していませんので、生活費に充てることももちろん可能です。

 相続人間の話し合いがまとまらず、遺産分割協議の成立までに長時間を要することが見込まれる場合でも、相続開始時の預貯金残高の3分の1に仮払いを請求する相続人の法定相続分を乗じた金額か、150万円のいずれか低い金額であれば、資金使途を問わず払戻しを受けることができます(民法第909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令)。

改正民法の施行により、従来の遺留分減殺請求はどのように変更が生じたのですか?

 遺留分権利者は、受遺者や受贈者に対し、遺留分を侵害する額に相当する金銭の支払いを請求することができるようになりました(改正民法1046条1項)。遺留分減殺請求により、減殺請求を受けた遺贈や贈与が共有となるとする従来の考え方を廃止し、すべて金銭により解決を図ることとされたわけです。

 「減殺」という考え方が廃止されたことから、名称も「遺留分侵害額請求権」と変更します。

相続人の一人が、相続開始後に勝手に預貯金を引き出して使ってしまいました。今後、遺産分割協議を進めるにあたり、使われてしまった預貯金についてはどのように対応すればよいですか?

 遺産分割の対象となる財産が、相続開始後遺産分割前に勝手に処分されてしまうようなケースでは、共同相続人全員が同意することにより、処分された財産が未だに遺産として存在するものとみなして遺産分割をおこなうことができるようになります(改正民法906条2項)。また、勝手に処分をした者が相続人の一人である場合には、当該相続人の同意は必要ではありません(同条2項)。

 この規定により、相続開始後遺産分割協議前に遺産を勝手に処分した相続人は、遺産分割における取り分が減少することとなるわけです。

 なお、預貯金債権の仮払い制度(改正民法909条の2)や、遺産分割事件を本案とする保全処分(改正家事事件手続法200条3項)は、改正民法906条の例外規定として位置付けられます。

預貯金の仮払い制度を利用して葬儀費用を支払う予定ですが、他の相続人の同意は必要ですか?

 必要ありません。預貯金の仮払い請求は、各相続人が単独で請求することが認められています。

 なお、仮払いを受けた預貯金は、仮払い請求をした相続人が遺産の一部分割によって取得したものとみなされますので、払戻しを受けた部分については、以後の相続人間の遺産分割協議の際に協議の対象となる財産から除外される点にご注意ください。

父が危篤状態となりました。葬儀費用のため、まとまったお金を今のうちに銀行口座から出金しておくことは可能ですか?

 口座からの預貯金の引出しには、金融機関側の本人確認が必要です。すでに危篤状態ということですので、引出しはできません。ATMを利用すれば1日当たりの限度額までの引出しが事実上可能ではありますが、相続開始直前の資金移動は、後日の遺産分割協議において他の相続人に不信感を招く要因ともなりかねませんので、避けるべきです。

 かつては、相続開始に伴い被相続人名義の預金口座が凍結され、金融機関としては、遺言か相続人全員による遺産分割協議書が提出されない限り預金の引出しに応じない取扱いであったことから、相続発生直後の資金確保という要請がはたらいていたことは事実ですが、平成31年7月1日以降は、遺産分割協議が成立する前であっても一定の金額について預貯金債権の仮払いを請求できることになりましたので(改正民法909条の2)、生前にあわてて預貯金の引出しをする必要はなくなります。

 なお、仮払いを請求できる預貯金は、相続開始時の預貯金残高の3分の1に仮払いを請求する相続人の法定相続分を乗じた金額か、150万円のいずれか低い金額となります(民法第909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令)。

妻に住宅を生前贈与しようと思っています。税務上の特例があることは承知していますが、ほかに注意する点はありますか?

 かねてより、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が、他方に対し現に居住している住宅やその敷地を生前贈与した場合、贈与した財産の評価額2000万円までの部分にいては贈与税が課税されない特例がありました。これに加え、平成31年7月1日以降の贈与では、いわゆる「持戻し免除」の意思表示があったものと推定されることになります(改正民法903条3項・4項)。

  被相続人が生前に贈与した財産については、贈与した財産の評価額相当分を被相続人の遺産に加算したうえで、具体的な相続分を算出することが原則とされており、これを「持戻し」といいます(同条1項)。ただし、持戻しは任意規定と考えられているため、贈与者が持戻しを免除する意思表示をした場合には遺産に加算されません(同条3項)。しかし、実際にはわざわざ持戻し免除の意思表示をするケースは少なく、また、贈与者に持戻し免除の意思が存していたとしてもその意思を明らかにする資料がないことから、実務上はあまり機能していないのが実情でした。

 今般の相続法改正では、長年連れ添った配偶者の貢献を相続手続に反映させることが改正の大きな目的の一つであることから、贈与税の特例と同様、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が、他方に対し現に居住している住宅やその敷地を生前贈与した場合、当該贈与については持戻し免除の意思表示があったものと推定する旨の規定が新設されました(同条4項)。

 なお、同項の規定は、贈与税の特例の場合と異なり贈与財産の評価額を問わず適用があります。また、生前贈与だけでなく、配偶者に対する遺贈、遺贈の規定を準用する死因贈与(民法554条)も対象となります。また、平成32年4月1日以降は、居住用財産だけでなく配偶者居住権(改正民法1028条)も対象となります。

 持戻し免除が推定される結果、生前贈与等を受けた居住用不動産は、推定が覆らない限り遺産分割の対象財産から外れることになりますので、配偶者は、実質的に法定相続分を超えて遺産を承継することが可能となるわけです。

「市民と法」に「福祉分野の民事信託契約の条項例と作成上の留意点」も掲載

 「市民と法」112号では、「【特集1】民事信託契約書作成の法的根拠論と技術論を探究する」の中で、あかし運営委員会の中里功委員による「福祉分野の民事信託契約の条項例と作成上の留意点」も掲載されています。

ちょっとだけ紹介しますと・・・・・

 本稿では「叶」がその実践活動の中から取りまとめたモデル契約書の逐条的解説を試みる。
 このモデル契約書は「親亡き後」に代表される福祉の分野において、法律の素人である一般市民が契約当事者となって民事信託を活用することを想定したものである。このため、起案にあたっては難解かつ複雑な契約条項を目にした契約当事者が利用を躊躇しないよう「読んでわかる」を第一義に掲げ、契約条項の説明を通じて「将来はこんな支援をしてもらえるんだ」「契約に携わる家族はこんな役割を果たしていく必要があるのか」など、具体的なイメージを描くことができるように心がけた。
 障害を抱える子の将来を憂う親御さんやご家族の生の声を反映し、実務家である私たち司法書士が「実際に使ってもらう」ことを意識して取りまとめたオリジナル版であり、借り物ではない「親亡き後」に適した内容であると自負する。なお、メンバーによる議論の過程は解説部分に記録されており「このようなニーズにはこのような条項で応えよう」「このような財産がある場合にはこの・・・・・

つづきは「市民と法」を購読してお読みください。

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5年前に父が他界した時には、実家で暮らしているのが母一人であったため、母名義で相続登記をしました。2年前に母も他界しましたが、実家に住む人もいないためとりあえず兄弟3人で法定相続分どおりに相続登記をしておきました。ところが、今年になって一番下の弟が勤めていた会社を辞め、実家に入って起業することになりました。兄弟としても弟の門出を応援してあげたいのですが、実家の名義はどのようにすればよいのでしょうか

5年前に父が他界した時には、実家で暮らしているのが母一人であったため、母名義で相続登記をしました。2年前に母も他界しましたが、実家に住む人もいないためとりあえず兄弟3人で法定相続分どおりに相続登記をしておきました。ところが、今年になって一番下の弟が勤めていた会社を辞め、実家に入って起業することになりました。兄弟としても弟の門出を応援してあげたいのですが、実家の名義はどのようにすればよいのでしょうか

 まず確認したいのは、「母」が亡くなられた際の法定相続分どおりの相続登記を申請する際に、ご兄弟で遺産分割協議をしたかどうかという点です。これによって少し手続きが変わります。

 

 ア)遺産分割協議をしていない場合

 法定相続分(このケースでは各3分の1)による相続登記は、法律が定めた割合どおりに登記しているだけですので、遺産分割協議を経ていなくても登記することができます。遺産分割協議を経ていないので、ご実家の土地建物がどなたの所有物になったのかは、まだ確定していないわけです。つまり、現状の登記記録は「相続人がABCの3人でその法定相続分は各3分の1」という情報だけを公示しているにすぎず、「ABCが各3分の1ずつ所有権を取得したことが確定した」わけではないのです。

 弟さん(Cとします)が実家を継ぐことになったとのことですから、兄弟3人(ABCとします)で「Cが単独で相続する」という遺産分割協議をすることにより、ご実家の土地建物はCが確定的に所有権を取得することになるわけです。

 なお、この場合の登記手続きは、「遺産分割」を原因としてABの持分をCに移転する登記を申請すればよいですし、これに伴う課税の心配もありません。

 

イ)遺産分割協議をしている場合

 同じく持分各3分の1で相続登記をしている場合でも、ABCで既に遺産分割協議をし、その結果「ABCが各3分の1ずつ実家の土地建物の所有権を取得する」と確定しているケースも考えられます。

 この場合、「一旦まとまった遺産分割協議をやり直してC単独名義で相続し直す」という作業が必要になります。このような遺産分割協議のやり直しは、裁判例でも相続人全員の合意があれば有効と考えられています。

 このケースでは、登記手続きと課税面で影響があります。

 アと異なり、C単独の登記名義とするためには、ABC3名のための相続登記を「遺産分割協議の合意解除」を原因として一旦抹消し「母」名義に戻します。そのうえで改めてC単独の相続登記を申請することになりますのでご注意ください。

 また、実体上は遺産分割協議のやり直しであっても、税務上はABからCへの贈与とみなされますので、Cに贈与税が課税される点にも十分にご注意ください。